部屋を出て 十二月の二十日前後のほんの幾日かしかできない形をした雲を五月に 目というよりは歯というよりは耳というよりは肌で全身で ひとつ また ひとつといつまでも空の涯から一方の涯まで数えながら 僕は 左折を繰り返している 広い道から広すぎる道へ あるいは 三月の浜辺から八月の路地へ 左折し 左折する ああ  なんという快適な左折だろう 左折するたびに速度は増し 唄いたくなるほどに心がはずむ けれど 決して唱わない 僕には 声がないから あるのは 左折する力 慣性の法則をボキボキとへし折って左折する 左折し左折する これはもう意思ではない 左折だ 純粋に直角につぎつぎに左折する また角 左折する 瞬間に左折する 五月が五月に出会う 今日は今日になる 雲は消える 海もない だが 僕は 僕に出会わず さらに 左折する また角