終り
なにひとつ終ったことなどないのに
バスは路地を曲がってこちらに近づいてくる
きっとまた小さな子供が轢かれて
母親が泣くことになるのだ
父親はどこに居るのか知らない
ああ
バスが近づいてくる
これから轢かれてしまう子供が
窓から顔を出している
見つからない父親に向かって手を振り合図している
なにひとつ終ったことなどないのに
これからのことがすべて見えてしまう
この悲しい今日の午後に
父親はどこに居るのだろうか
轢かれるはずの子供がバスに乗ったのは
父親を探すためである
探されているからこそ父親はどこに居るわけにもいかず
ひたすら終るのを待っているに違いない
見つかることのないどこかで
それでも
始まるまえに終る出来事などひとつもなく
ああ
子供の身体は
ミシミシとバスに轢かれてしまうに
決まっているのである