眠らない男  虫がいる。喚き散らす虫達が、僕の耳元で蠢いている。   まるで、僕の寝床は野原の真ん中にあるみたいだ。虫達 の喚きは、食欲と繁殖と死の唱だが、勝手な音の渦巻き はただの騒音にすぎない。中心にいる僕は、眠らない男 になってしまう。眠らずに、衰弱していく男だ。いや、 本当は衰弱しているから眠れないのだろうか?眠ること でさえ、体力を要求するのだから。妻は、そんな僕を眠 らずに見つづけている。けれど、僕の不安が見えている わけではない。訳もわからず、眠ることをやめて眠らな い僕を見つづけているだけだ。そうやって、共に衰弱し て死んでゆく僕達なのだ。