僕の給料  時計屋のおじいさんが、僕に仕事しないかと言う。時 計を作れとか修理しろとかいう、難しい話ではない。ほ とんど客を見かけたこともない店の、店番だ。おじいさ んは、僕を雇って奥で寝ていようという魂胆にちがいな い。そんな仕事でも、やっぱり仕事で、何もしていない のとは随分違う。来るはずのない客を待って、通りを歩 く人を観察していると、時間はあっという間にすぎてし まう。こんなことは、この町に来て初めての経験だった。 夕方になって仕事を終えたあとで、僕がそんな感想を告 げると「それが今日の給料さ」とおじいさんは言った。